座屈荷重とは
ボールねじ軸は細長い形状のため、軸方向の圧縮荷重が大きくなると軸が横方向に曲がる「座屈」が発生する可能性があります。
この現象を防ぐため、ボールねじの設計では座屈荷重を確認することが重要です。
座屈荷重は次の式で求めることができます。
P = η₁ × π² × E × I × 0.5 / L²
P :座屈荷重(N)
η₁ :取付係数
E :縦弾性係数(鋼の場合 約2.06×10⁵ N/mm²)
I :断面二次モーメント(mm⁴)
L :取付間距離(mm)
この式は、柱の座屈を求めるオイラーの座屈式を基にした計算式であり、ボールねじの支持条件を取付係数として考慮しています。
なお、この式では理論座屈荷重に対して 0.5 を掛けており、安全率2を考慮した値となっています。
そのため、計算結果は実際の使用条件を考慮した安全側の座屈荷重として扱うことができます。
断面二次モーメント
断面二次モーメント I は、軸の曲げに対する強さを表す値であり、ボールねじ軸の場合は次の式で求められます。
I = πd⁴ / 64
d :ねじ軸谷径(mm)
断面二次モーメントは軸径の4乗に比例するため、軸径がわずかに大きくなるだけでも座屈荷重は大きく増加します。
座屈荷重に影響する要素
ボールねじの座屈荷重は主に次の3つの要素によって決まります。
ねじ軸径
軸径が大きいほど断面二次モーメントが増加し、座屈しにくくなります。
取付間距離
軸が長くなるほど座屈荷重は小さくなります。
座屈荷重は取付間距離の二乗に反比例します。
取付状態
軸の支持条件によって座屈強度が変化します。
一般的には「固定-固定」「固定-支持」「固定-自由」などの支持条件があり、取付係数として計算に反映されます。
設計時のポイント
ボールねじの座屈は長ストローク装置や大きな推力が必要な機構で問題になることがあります。
そのため設計時には以下の点を確認することが重要です。
・取付間距離
・ナットの最大移動位置
・支持条件(取付状態)
・使用荷重
これらを考慮し、座屈荷重に対して十分な余裕を持った設計とすることで、安定したボールねじ機構を実現することができます。
取付係数とは
取付係数は、ボールねじ軸の支持条件による座屈強度の違いを補正するための係数です。
同じ長さの軸でも、両端の固定方法によって座屈の発生しやすさが変わります。
代表的な取付状態は次の通りです。
固定-自由
片側のみ軸受で固定され、もう一方が自由な状態です。
最も座屈しやすい支持条件となります。
固定-支持
片側を固定支持し、もう一方をラジアル支持とする構造です。
多くのボールねじ機構で採用される一般的な支持方法です。
固定-固定
両端を固定支持する構造です。
軸の拘束が最も強く、座屈荷重は最も大きくなります。
このように、支持条件が強固になるほど座屈に対して有利になります。
取付間距離とは
取付間距離 L は、ボールねじ軸の支持部(軸受)間の距離を表します。
一般的には固定側軸受と支持側軸受の中心間距離として扱われます。
この距離は座屈荷重に大きく影響し、軸が長くなるほど座屈荷重は小さくなります。
座屈荷重は軸長の二乗に反比例するため、わずかな長さの増加でも座屈強度は大きく低下します。
なお、実際の機構では圧縮荷重が作用するのは固定側軸端からナットまでの区間となる場合が多く、この距離を座屈計算の取付間距離として扱うことも可能です。
また、ナットがテーブルやスライダなどに剛性高く固定されている場合には、ナット位置が軸の支持点として働くため、支持条件を固定-固定として取り扱うことができます。
ただし、装置の構造や剛性によってはナット部の拘束が十分でない場合もあるため、設計時には実際の機構条件を考慮して取付間距離を設定することが重要です。
計算例
ここでは、本ページの座屈荷重計算式を用いてボールねじ軸の座屈荷重を求めます。
座屈荷重の公式
座屈荷重は次の式で求められます。
P = η₁ × π² × E × I × 0.5 / L²
また、断面二次モーメント I は次式で求められます。
I = πd⁴ / 64
P :座屈荷重(N)
η₁ :取付係数
E :縦弾性係数(鋼の場合 約2.06×10⁵ N/mm²)
I :断面二次モーメント(mm⁴)
d :ねじ軸谷径(mm)
L :取付間距離(mm)
なお、この式では 理論座屈荷重に対して安全率を考慮するため 0.5 を掛けています。
これは理論値の 1/2 を許容値として扱うことを意味し、安全率2を見込んだ設計式となっています。
条件
ねじ軸谷径
d = 17.5 mm
取付間距離
L = 600 mm
取付係数
η₁ = 4(固定-固定)
計算
まず、断面二次モーメントを求めます。
d⁴
= 17.5⁴
= 93,789
I = πd⁴ / 64
I = π × 93,789 / 64
I ≈ 4,604 mm⁴
次に、座屈荷重を求めます。
P = η₁ × π² × E × I × 0.5 / L²
P = 4 × π² × 2.06×10⁵ × 4,604 × 0.5 / 600²
P ≈ 52,000 N
計算結果
この条件におけるボールねじ軸の座屈荷重は
約 52 kN
となります。
